さよならの魔法



届かない。

響かない。


俺の言葉は届かない。

俺の言葉は響かない。


何の意味もない。

何の意味も成さない。



口々に出てくるのは、からかいの言葉ばかり。

そこには、反省の言葉はない。

謝ろうとする意思もない。


天宮にやったことに対する後悔も、反省も微塵も感じられなかった。



信じられないのは、こっちだよ。

もう言葉なんて、出てこない。


言ったって、意味がないのだ。

どうせ、届きはしないのだ。



何を言っても、届きはしない。

何を言っても、伝わらない。


そういう相手が、この世にいるなんて。

言葉も心も通じない相手が、この世にいるなんて。



天宮が言い返せなかった理由。

天宮が言い返そうともしなかった理由。


天宮は分かってた。

知っていたんだ。


こうなることを。

言い返したとして、無駄に終わることを分かっていた。



全てを悟っていて。

その上で、歯を食い縛って耐えていたのだと。


そう実感した。



「………。」

「はい、あげる。」


無言で睨んだ俺に、磯崎が小さな箱を押し付ける。


磯崎が押し付けてきたのは、手のひらサイズの小さな箱。



水色の包装紙。

同系色のリボン。


天宮が守ろうとしていたもの。

天宮が取り返したかったもの。


これは、天宮の心、そのもの。

控え目で穏やかな、天宮そのものだ。



「そんなにかばうなら、あげるわよ。」


俺の手にあるのは、磯崎から取り上げたカード。

それと、水色の箱だけ。


ドスの効いた声で、磯崎がボソッと悔しげに呟く。



「あんな地味な女、どうしてかばうの?………趣味悪い。」


趣味が悪いとか、そんなことはどうでもいい。


俺は許せなかった。

ずっと許せなかった。



弱い者いじめをして、時間を紛らわせていた磯崎が。

そんな磯崎を止められない、意気地なしの自分が。



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