さよならの魔法



本人がいない所でなら、何をしてもいいのか。

許されるのか。


違うよな?



見えないフリなんか、しないでくれよ。

気が付かないフリなんか、するなよ。


名前だってある。

机だって、ちゃんと置かれてる。


あの子の存在を、先生まで否定しないでくれよ。




この教室は、虚しいだけだ。

磯崎がいなくなったって、根底に流れているものは変わらないのだ。


あの子を。

天宮を傷付けたものは、まだここにある。




「もうすぐ中間テストだけど、皆さん、ちゃんと勉強してますか?」


いつもの説教じみた話が始まって、周りでは溜め息が増えた。


これも、恒例だ。

3年に進級してからは、毎日のこと。



「あなた達は受験生なんです。しっかり勉学に励んで、来年の受験に備えて下さいね。いいですか?」


受験。

受験。


口を開けば、その言葉ばかり。



親からも、そう。

先生からも、そう。


毎日毎日、勉強のことばっかり。



呪文か?

勉強勉強って言ってれば、魔法でもかかって頭が良くなるのか?


受験生なのは、分かってる。

勉強しなければならないことも、理解している。


でも、その意味が分からない。

その理由を見い出せない。



何の為に勉強しているのだろう。

何の為の受験なのだろう。


どうして、ここまで追い詰められなければならないのだろう。



勉強?

そんなの、言われなくてもやってるよ。


将来のこと?

そんな遠い先のこと、今の俺に想像出来る訳ない。


何も考えていないのではない。

だけど、具体的になんて考えられないのだ。


今は、まだ。



14歳。

中学3年生。


大人から見れば、まだまだ子供に見えることだろう。

実際、俺はまだ子供である部分が多いのだと思う。



子供だけど、真面目に未来は考えてる。

想像する努力はしてる。


遠過ぎて、思い浮かばないだけ。

雲を掴む様な先の未来のことなんて、思い浮かべられないだけ。



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