さよならの魔法
俺が茜に優しく接しないのには、俺なりに考え抜いた理由があってのこと。
俺は、もう誰のことも傷付けたくない。
綺麗事かもしれない。
だけど、少しでも、誰かを傷付ける可能性があることをしたくないんだ。
茜を期待させたくない。
今もなお感じるその熱い視線の意味は、俺の勘違いでなければ、去年と同じはずだ。
友達。
そういう関係に甘んじながらも、茜は今も俺のことを見ている。
そういう目で、俺のことを見つめている。
間違いならば、その方がいい。
自意識過剰だと、笑ってくれればいい。
俺と茜は友達かもしれないけれど、ただの友達ではない。
俺と茜には、過去がある。
付き合っていたという事実は消せないし、これからも変わらない。
過去は変わらないんだ。
変えられないんだ。
付き合っていたという事実がある限り、俺は他の女の子と同じ様に茜を見れない。
他の女の子と同じ対応なんて、茜にだけは出来ない。
「せっかくの自由時間なんだから、誰かと校内でも回ってこいよ。」
「誰かって、誰よ…………。」
「林田とか、さ。林田だって、午後のシフトだろ。」
「ユウキ………。」
俺の隣にいなくていい。
むしろ、ここにいちゃいけないんだ。
茜は、もう自由だ。
俺に縛られる必要もないし、俺が縛る理由もない。
付き合っていた頃から、縛ることなんてしたことはなかったけれど。
俺の言葉に、茜はいまいちいい反応をしてくれない。
不満そうに頬を膨らませて、機嫌が悪そうに視線を逸らすだけ。
どうやら、林田と回る気はないらしい。
他の友達の所にも、行くつもりはない様だ。
「………回るなら、ユウキと一緒がいいな。」
スッと近寄る茜。
俺の耳元に唇を寄せて、茜がそう呟く。
茜のその行動に、クラスメイト達の視線が俺達に集まっていくのが嫌でも分かった。