さよならの魔法
そこで一端言葉を区切り、西脇は俺にこう告げた。
「何もしないでそこに突っ立ってるなら、とっとと客引きでもして来て!」
「うわ!!」
笑顔でキレる西脇。
追い立てられる様に、テントから追い出される俺。
こうして、俺は再び校舎の中へと舞い戻ることになってしまったのだった。
ざわめきで満ちる校内。
弾んだ声。
浮わついた空気。
いつもよりも騒がしく感じるのは、きっと今日が特別な日だから。
日常的に見る風景の中にいるのに、非日常である1日。
見えるのは見慣れた校舎内の風景なのに、同じ風景であって同じではない。
外と中を隔てる窓ガラスには、セロテープでポスターが貼られている。
それも、1枚だけではない。
覆い尽くすかと思えるほど、大量のポスターが貼られているのだ。
赤。
青。
黄色。
目立つ色でわざと塗られたポスターが、それぞれのクラスで行われている催し物を謳う。
独特のこの高揚を、どう言い表せばいいのだろう。
遠足の日。
修学旅行の日。
夏祭りの日。
みんなが楽しみにしている日と同じ空気が、今、ここには流れている。
(学校祭って、やっぱいいなぁ………。)
子供ではないと思いたい年頃だけれど、こういうイベントの当日はやっぱりワクワクしてしまう。
いくつになっても、心が躍るんだ。
みんなで、何かを作り上げていく。
同じ場にいて、1つのものを目指して頑張っていく。
その過程に、ワクワクするのかもしれない。
幼い子供ではない。
だけど、大人にもなりきれない。
成長途中と言えばいいのか。
悪く言えば、中途半端な存在なのか。
まだ大人になりきれていないからこそ、こんなにはしゃげるのかもしれないと思った。
俺がもっと年をとって、時間を経て、本物の大人になってしまったら、こういうこともなくなっていくのだろうか。
こんな気持ちも忘れてしまうのだろうか。