さよならの魔法



いろんな会社の面接を受けて、受けて、受けまくったうちの1社が今の会社だったのだ。


ダメ元で受けた会社に入れて、浮かれていたのがいけなかったのかもしれない。



希望の配属先を聞かれて、どこに配属されても頑張りますと答えた俺が配属されたのは、営業部。

別名、鬼の営業部。


その別名を知ったのは、もちろん入社後のこと。

入社して1週間も経たないうちに、俺は自分の言葉を後悔することとなった。



怒鳴られるなんて、日常茶飯事。


うるさい上司。

数字だけに追われる毎日。



うちの会社の営業部では、契約を取れたヤツだけが殿様なのだ。


契約。

数字。


結果だけが、ここの全て。



新人だからと言って、甘えさせてなんかくれない。

仕事は待ってくれない。


新入社員を、会社は当たり前のことだけれど特別扱いなんてしてくれないのだ。



それが、俺を取り巻く現実で。

新卒の俺が、容赦なく放り込まれた環境で。


今日もまた、主任に怒られ、叱り付けられている自分がいる。




「新規契約は取れたのか?」

「すいません、まだ………取れてません。」

「すいません、すいません………お前はそればっかりだな。」

「………。」

「紺野、お前は『すいません』しか言えないのか?」


恫喝するかの如く、主任の嘆きは俺に当てられ続ける。



すいませんしか言えないのかって、そんな訳ないだろ。

好きで言ってるんじゃないんだ。


契約、取れました。


言ってみたかったその言葉を言い放って、主任を驚かせてやりたい。

喜ばせてやりたい。



だけど、それが出来ないんだ。


出来ないことが悔しい。

心底、情けないなと思ってしまう。



イラついているのは、怒鳴り付けてくる主任に対してではなかった。

口汚く罵ってくる主任に腹が立つことは事実ではあるが、それよりも何よりも、自分自身に腹が立っていた。



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