さよならの魔法
きっと他の人ならば、こんなことはないだろう。
誰とでも打ち解けられる、明るい人ならば。
だけど、今回だけは違っていた。
「久しぶり、だよね………?」
ゆっくりと、言葉を選びながら口にする。
思っていたよりもすんなりと言葉が出てくるのは、どうしてだろう。
唇から紡がれた言葉。
きっと、自分に近いものを持っているからだ。
橋野さんと私は、どこか似ている。
クラスの中で、少し浮いているところも。
目立たないところも。
似ているから。
同じだと思うから、話しかけることに躊躇わないのかもしれないと。
「夏休みに入る前に会った以来だね。ほんと、久しぶり………。」
印象が変わったと、そう感じた。
それは、いつもと違う服装のせいか。
それとも、初めて見る笑顔のせいか。
教室の端で俯いていた、橋野さん。
私と同じだった。
みんなの輪に入ることもなく、いつも1人ぼっちで。
笑顔を見せることのなかった彼女が、今、私の目の前で笑っている。
消していた笑顔を、私の前では見せてくれている。
違和感を感じながらも、私までつられて笑顔になる。
「私ね、ここの近くに住んでるの。」
「そうなの………?」
「だからね、結構、ここによく来るんだ。」
橋野さんが嬉しそうにそう言うから、私までついつい嬉しくなる。
どうしてかな。
感情まで、私に伝染してくるのは。
「私の家はそんなに近くないんだけど、暑いの苦手だから………ここ、好きなの。」
「ふふっ、私も。」
正直に理由を話せば、橋野さんも私もだと同意してくれた。
本当の理由は、もう1つあるけど。
母親とのことは、今は言う必要はない。
静かだった空間が、私達の話し声で満ちていく。
沈み込んでいた気分が、軽く浮いていく。