放課後ラプソディ
 あたしは、六坂の言ったことを、もう一度頭のなかで繰り返し、ようやく、理解できた。

 六坂のお姉さんが、自殺しようとして、病院に行った。

「あっ、……だったら、早く六坂も病院に」

 霧恵も、理解するのに時間がかかったのだろう、かろうじて話せるようだった。

 教室にいるクラスメートは、あたしたちだけになりつつある。まわりに誰か、人の触れられたくない部分を無神経に会話のネタにするやつがいなくてよかった。声だって小さかったし、これなら誰も聞いてないだろう。

 それから、六坂はいま電話で聞かされたばかりのことを、感情の抜け落ちた眼で、淡々と説明してくれた。ちょっと信じられないぐらい淡々としていたのは、ショックのせいなのか。

 表情が、怖いくらい、いつもの六坂ではなかった。

 六坂のお姉さんが、就職できないことを苦に、自殺しようとして、手首を切った。それも、けっこう深く。

 お姉さんはいま病院にいるそうだ。

 なんでも、自分を傷つける可能性があるから、様子を見るために入院するんだそうで。
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