偽りの婚約者


信じてほしいと告げた想いは千夏には伝わらなかった。



「……信じられません」



「……そうか……だったら信じないまま抱かれてろ」



「ひどいっ、サイテー!!」



言葉で伝わらないなら他の方法で伝える―――――。



千夏の体を抱きしめ背に手を回しトントンとあやすようにしているうちに落ち着いて来たのか彼女は顔を埋めたまま、じっとしている。

もう一度あの言葉を囁く。




「東條さんの事が好きです」


彼女が小さく発した言葉は本当か?
千夏も俺と同じ気持ちでいてくれたのか?
確かめようと千夏の顔を覗き込んだ時にはもう目を閉じていた。



「千夏……」



眠っちまったか……。


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