偽りの婚約者
千夏から残業だから行けないとメールがあり何もすることがなくテレビを見ていたら通り魔の事件の事が報道されていた。
「被害者が五人も出てるって、酷いな」
急に千夏の事が心配になり、そろそろ残業も終わった頃だと思い携帯電話を手にとって、千夏の携帯にかけた。
《残業は終わったか?会えねぇなら声だけでも聞きたくてかけてまたんだ》
《……残業は今、終わったところです》
帰って来た返事の声が泣いていると分かりどうしたのかと訊いた。
《お前、もしかして泣いてる?どうしたんだ?》
《……泣いてません。……何でもないんです》
電話の向こうで幽かにむせび泣く声が聞こえた。
《嘘つき、直ぐに分かった。泣いてるってな?》
《東條さん……会いたいの……今すぐに会いたいよ》
俺も今、直ぐに会いてぇ。
理由は分からないけど泣くほど辛い事があったんなら抱きしめて慰めてやる。
《……分かった直ぐに迎えに行く。今どこだ?もう会社は出たのか?》
駅で待っているように言い電話を切った。