偽りの婚約者
「千夏、いい加減にしろ」
ふざけた事ばかり言ってんじゃねぇ。
大概にしないと―――――。
誰かが来たようでインターホンのブザーが鳴り男の声が聞こえてきた。
先輩か。
「お前とは後でちゃんと話しをするからな。とりあえず、ここで待ってろ」
千夏に、そう言いおいて玄関に行った。
「先輩?忘れ物ですか?」
「東條、安西さんはいるか?」
「……千夏に何のようですか?」
「やっぱり間に合わなかったか……」
先輩から千夏の名前が出て頭の中で警鐘が鳴った。
千夏に何の用なんだ?
「とにかく中に入れてくれないか?頼む」
先輩に言われて中に入れた。
「腕時計がなかったか?」
腕時計……。
あれは先輩のか?
だけど、たしか女物だったよな……。
「あの女物の腕時計は先輩のだったんですか?」
「いや……、正しくは中島紗季のものだ」
中島紗季……今度は先輩の口から玲奈の友達の名前が出て来た。
中島紗季が関わっているって事なのか?
どっちにしても先輩は何か知っている筈だ。