偽りの婚約者


「それ、千夏の腕時計じゃねぇな?誰のだ」



「……ねぇ一緒にいてほしいのは本当に私なのかな……?それとも紗季さんなの?」


放心したような顔で、まるで噛み合わない事を訊いてきた。



「紗季?いったい、何だって言うんだ。
わけが分からねぇ……」


「知らないなんて、おかしいです。
経理課で一緒だった中島紗季さんの事です。
東條さんもうちの課にいたんだから紗季さんを知っているはずです」


経理課ときいて、玲奈の友達だと分かった。



「玲奈の友達か」



「ここに来たんでしょ?」


いったいどうしたって言うんだ……。
わけの分からない事ばかりだ。



「玲奈の友達と付き合いはない。
良く考えろ、ここにくる訳はないだろう」



「東條さんの嘘つきっ!! 紗季さんを抱いたくせに……」


俺が玲奈の友達を抱く?お前がいるのにそんな事をするわけないだろう。


肩に当たったのは千夏が握りしめていた腕時計。






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