偽りの婚約者
この後からはお互いに軽口を叩きながら過ごした。
BARを出るまで復讐の話は、もう東條さんの口からは出て来ることはなかった。
そして気がつけば私がBARに来てから二時間程経っていて。
最初は苦痛で仕方なかったはずなのに、不思議と一緒にいる事がいつの間にか嫌ではなくなっていた。
「じゃあ、そろそろ帰るぞ」
「あっ、待ってください。結局、私は何の為に呼び出されたんですか?」
一瞬の間があって、彼は言いづらそうにしていたけど……
しばらく経ってから答えてくれた。
「まず、酷いやり方で婚約を承諾させてしまって謝りたかった。あの時は必死だったから、つい……本当に悪かった」
「それと、どうしてもお前にやって貰うしかないんだ。千夏に協力してもらうなら険悪な関係を何とかした方がいいと思ったんだ」
「それで、私を呼びだしたんですか?」
「ああ、そうだ」