偽りの婚約者


子会社に移ってから暫くして、玲奈が訪ねて来た。



「私ね……何もかも捨てて来たの。だからお願いここに、いさせてほしい」


玲奈が俺の為にあの家族を捨てて来てくれた。
追い返すなんて、出来るわけがない。
お前が、そばにいてくれるなら……。



「……玲奈は、それでいいんだな?」



「もうあの家には戻らないと決めて、ここに来たの。今さら駄目だなんて言わないで」



それから、俺達は一緒に暮らし始めた。
だけど、やっぱりあの玲奈の家族が黙ってほっとく訳はなかった。
束の間の幸せだった。



その日の夜遅く会社に来るように呼び出された。


「雅人?どうしたの?」


「会社で問題があったようなんだ。ちょっと行ってくる。
遅くなるかもしれないから先に寝ててくれ」


玲奈を連れ出す為の電話とは気付かずにマンションを出た。
マンションに戻った時には玲奈はあの男に連れ去られて居なくなっていた。












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