偽りの婚約者
それ以来、玲奈とまったく連絡が取れなくなった。
どうしようもなく過ぎて行く時間の中で、滝本興産という大きな壁に阻まれ、すっかり気力をなくし全ての事が俺はどうでも良くなってしまっていた。
それから季節を幾つか通り越して、新入社員を迎える時期になった。
ある日、諸田主任が会社に訪ねて来た。
「先輩!」
「久しぶりだな」
「急にどうしたんですか?」
「うちでやっている仕事をこっちでもしてもらっているんだが、計算が合わなくてな。
どうなっているのか確認しに来た。
その次いでにお前の顔も見とこうと思ってな、こうして寄ってみたんだ。
……お前に会いに来るのは迷惑だったか?あの時は最後まで庇ってやれなかった。お前の力になりたかったのに何の助けにもなれなかった」
「いえ、先輩には感謝してます」
「後で、話があるんだ時間を作ってくれないか?」