偽りの婚約者
玲奈との待ち合わせ場所に指定された喫茶店を見つけて、入口の前に立った。
……これが最後だ。そう心の中で言い聞かせて中に入って見回すと、彼女は奥のテーブルに座っているようだった。
暫く見なかったせいか、少し痩せたように見える。
玲奈は、俺に気づくと笑顔で片手をあげた。
「雅人、久しぶりだね……」
「……婚約、したんだってな?」
「……ねぇ、雅人とは、もうやり直せないのかな?」
婚約までしといて、俺とやり直したいって何だよ。
「玲奈、お前は勝手だな。婚約者に悪いとは思わないのか?」
「でもっ、私はまだ雅人の事を───」
「玲奈、それ以上言うなっ!
今日は……、全てを……お前との関係を終わりにするつもりで、ここに来たんだ」
「雅、人……」
涙目ですがるように、こっちを見る玲奈。
やっぱり、俺の所に戻ってこい!
そう言いそうになった。
玲奈を思いきり抱き締めたかった。
……でも、そんなことはダメだ。
俺じゃ、玲奈を幸せにする事ができない。
それが分かったから、お前の幸せは……婚約中の秘書とやらに託すよ。