続・鉢植右から3番目
背中を向けているのに、何故かヤツには私の行動がわかったらしい。私が「閉」のボタンを連打する前に、手と足をドアに突っ込んだ。
ガツンと音がして、せっかく閉じかけてたエレベーターがまた開く。
そこに大きな体をするり割り込ませて、ヤツは上から私を見下ろした。
「都、今だ」
「へ?」
「連打」
あ、ボタンをね。はいはい――――――
つい、言われた通りにボタンを何度か押してしまった。
閉じていくドアの向こうで腰に手をあてて立つ仏頂面の美しい女性に、うちのダレ男が言った。
「じゃあ渡瀬、お疲れ」
エレベーターは閉まり、この時になってようやく私はまたヤツに使われてしまったことに気付いた。
きっとこの男は最後の挨拶をしたくないが為に私を利用したのだろう。チャンスは確実に、しかも自然に自分のものにするのが一々ムカつく男だ。
・・・何てこったい。
私達は結局誰にも言わずにそのままでホテルからタクシーに乗り込み、家に帰ってきたのだった。
タクシーの中でした会話はこれだけ。私が、渡瀬さんって学生の時からあんな感じだったの?と聞いて、既にずるずると眠りかけていたヤツが、うん、と簡単に言った。
それ以後、タクシーでヤツは寝てしまったし、私は半乾きの服が気持ち悪くてイライラしていた。