R∃SOLUTION
004.騎士団と英雄
 粛々と運ばれる料理を見詰める。

 先ほどからテーブルに並べられていくのは見慣れない料理ばかりである。湯気が漂っていることから作りたてであることだけは見て取れるが、味の方は想像がつかない。

 高めの椅子に腰かけ、ひたすら無言に耐え続けていた彼は、扉の前で一礼した侍女に軽く礼を言ってから、さてどうしたものかと腕を組んだ。

 結局、入団試験は明日に決定した。早ければ早い方がいいだろうと笑う、かの闊達な男性が目に浮かぶ。

 そのため、今日はしっかりと体力を回復しなくてはならない。

 そのはずであるのだが――如何せん、彼はテーブルマナーに弱い。

 昨日、侍女による説明で細々としたエチケットまで頭に叩き込んだのは事実である。しかし、それはあくまで知識として覚えているだけであって、それを使えるかどうかと言えば――。

「別の話だよなあ」

 呟くも、このまま固まっている場合ではない。せっかく暖かい食事なのである。

 パンを一口齧る。柔らかな芳香と小麦の味が広がる。

 これならば、食生活でも困ることはないかもしれない――上機嫌に残りを噛み砕こうとして、彼は眉根を寄せることとなった。

 ――硬い。

 この世界においては高級品なのであろうが、パック詰めされて値引きのシールを貼られたもののほうがまだましである。

 そうなってくると、いかにもパン然とした――パンであるのだから当然なのであるが、その味さえ憎たらしく思えてきた。かといって投げつけられるわけもなく、腹いせのようにもそもそと咀嚼するのが関の山である。

 ポタージュにパンの欠片を浮かせながら、無言でじゃがいもと小麦の香りを飲み込む。

 気を遣えと言われていたが、どうせ誰も見ていないのだと思うと、とにかく空腹を満たすことの方が大事に思えてきた。

 ナレッズが絶品だと評した肉の塊を切り分けて、ナイフで刺した。口に入れると強い塩の味がして、彼は思わず咳き込みそうになる。すんでのところでワインを流し込み、どうにか呑み込みきってから、口許を押さえた。

 ちりちりとした痒みを訴える喉に苛つく。

 これのどこが絶品だと悪態を吐きたくなった。

 全て吐き出したいが、テーブルクロスだけは汚さない方がいい。

 滲む視界を拭った。

 親しみのない味のする料理がある。

 置き場の分からないナイフを手に持ったまま、彼は大きく溜息を吐いた。

 最初に飲む酒は安物の発泡酒がいいと、両親を見て漠然と思っていた。例え苦かろうと、味わおうと決めていた。

 酔う感覚に溺れるというのがどんなものかにも興味がある。発泡酒ならば、浴びるほど飲んでみるのも不可能ではないだろう。

 そうは思えど、感傷に浸っても仕方がない。

 手元にある温いワインを飲み干す。僅かな苦みとそれを上回る甘さに反吐が出そうだった。彼の思考を阻害するようなものは何もない。あるとすれば、この広いだけの個室だけ。

「そんなこと言ったって仕方ねえっつう」

 ぜろぜろとした声が出る。

 軽く息を吐いて、彼は元凶たる塩の味を空咳で追い出した。
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