スイート・プロポーズ
「おはよう」

「あ……おはようございます」

 いつも通り、夏目は出社した。挨拶は返したものの、顔は見れない。

(気まずいわ……)

 朝はいつも、ふたりだけ。
 それを分かっているのに、いつも通り出社してしまった。

「…………」

 円花はおもむろに席を立つと、広報部を出て行く。
 その背を見送る、夏目の沈んだ表情を、彼女は知らない。



 行くあてもないまま出て来た為、とりあえず自販機へ行くことにした。
 しかし、財布を持っていないことに途中で気づく。

「私のバカ……」

「朝から暗い顔だな」

「……専務! お、おはようございます」

 予想もしていなかった人物の登場に、円花は慌てて頭を下げる。
 まさか、社員が出社するには早い時間に、専務と会うとは。
 夏目とは違う気まずさを感じてしまう。

「おはよう。早いね」

「そ、そうですね」

 愛想笑いを浮かべつつ、円花は視線を泳がせる。一社員の自分が、専務とふたりで気まずさを感じないはずがない。

「まぁ、小宮さんの出社時間が早いのは、優志から聞いてたけど」

 ポケットから500円玉を取り出し、自販機へと近づく。

「……そうなんですか?」

「うん。あ、なんか飲む?」

 史誓が、自販機を指差す。

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