君に、溢れるほどの花を
(・・・苦しい・・・)


「二人とも、なにしてるの・・・?」

「十一時間二分三十六秒ぶりに、雨流と会えた喜びを噛み締めているのよ」
「十一時間二分三十六秒ぶりに、雨流ちゃんと会えた喜びを噛み締めているんだよ」


(・・・意味がわからない)


今の雨流は、まさにサンドイッチの具状態。
両側から潰す勢いでぎゅうぎゅうと双子に抱きつかれているのだ。


別れてから半日も経っていないのに、大げさな双子の言動に、雨流はため息が出るのを抑えられなかった。

それに。


(十一時間二分三十六秒ぶりって・・・)


細かい。

この双子は、わざわざぼくと別れてからの時間をはかっているのか、と。


いつものことながら、双子の思考回路がまったく理解できない雨流だった。



「そこの双子、もうその辺にしてあげな。今はそんな時間もないんだからね」


呆れ混じりの咲月の言葉に、雨流はようやく抵抗することに思い至ったのだが・・・。

こういうことは、双子といればいつものことで、すっかり慣れてしまっていた雨流は、抵抗するのは面倒だと思い直す。

なんだかすっかり双子に毒されているような気がしなくもない。

それでも雨流は。


(・・・まあ、いいか)


そんなふうにいつもの如く、彼らの言葉や行動を適当に流してしまう。
こうして、双子の雨流への行き過ぎた愛情表現は日常化していくのだった。







「この中に、必要なものはすべて入れといた」


そう言って、咲月は背負っていた小さめのリュックを日向に、灯影には朝食だと言って籐の籠を手渡した。

そんな咲月と双子を見ていて、雨流はふと思う。
この三人は面識があっただろうか、と。
雨流経由でそれぞれのことを知ってはいても、会ったことはなかったはずだ。


「いいかい、くれぐれも頼んだよ。・・・それから―――」


そこで咲月は双子から雨流へと視線を移すと、紐で括って持っていた一冊の古びた本を差し出した。


「お守りだ。雨流、これだけは肌身離さず持ってな。・・・なにがあってもだ」


その本の表紙には、今まで見たことがない文字のようなものが書かれていた。




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