君に、溢れるほどの花を
「雨流ちゃん、もう食べないの?」


ぼんやりと窓の外を見ていた雨流は、そう声をかけられ、声の主――灯影へと目を向ける。
色素の薄い茶色がかった垂れ目がちな瞳が、心配そうに雨流を見つめていた。


「・・・ん。お腹、空いてない、から」



今、雨流たちはいくつか電車を乗り換えながらある場所に向かっていた。
ある場所、と言っても雨流はそれがどこなのかを知らない。
ただ、双子に連れられるままに駅へ行き、それからひたすら電車に揺られているのだ。

ちなみに、"雨流たち"というのは雨流と双子の三人のことで、咲月はこの場に同行していない。







遡ること数時間前。

あの古びた不思議な本について、咲月は"お守り"という以上に詳しい説明をする気はないようだった。

仕方なく、雨流は他に気になっていたことを訊いてみた。


「・・・三人は、会ったこと、ある?」


その瞬間、空気がビシッと固まった、ような気がした。
三人の様子や表情にはなにも変わりがない。


(気のせい・・・?)


「あー、まあ、ちょっとな。それについては、今度暇なときにでも話すさ」


わずかに目を逸らし、ガシガシと頭を掻き回しながら、どこか言いづらそうにする咲月。

すぐに雨流は言う気がないなとわかった。


それから咲月は、話しはここまでと言わんばかりに三人に背を向け、地下への階段を下り始めた。


(え?)


「月姉・・・?」

「ああ。言い忘れていたけどね、あたしが着いて行けるのはここまでなんだ。ここから先は、そこの双子と行きな」


背を向けたまま、まるで突き放すように咲月はそう告げた。

一体どういうことかと一歩踏み出しかければ、両側から双子に腕を掴まれた。


「行きましょう、雨流」
「行こっか、雨流ちゃん」


にっこりと二つの同じ笑顔に挟まれ、雨流は捕獲された宇宙人よろしく連れて行かれるしかなかった。。

こうして、咲月を除いた三人での旅(?)が始まった。







「はい、雨流」

「??」


これは一体、どういうことだろうか。
お腹は空いていないとはっきり告げたはず。

はずなのに、今、雨流の目の前にはなぜかサンドイッチが。

咲月特製スペシャルサンドイッチが、日向の手によって差し出されていた。


「わたしが食べさせるか、自分で食べるか、選ばせてあげるわ。どちらがいいかしら?」

「・・・い、いらな・・・―――」

「どっち?」


・・・・・・・・・。


「・・・自分で」


負けた。
その迫力ある笑顔に。
弟の灯影より少しばかり濃い茶色の猫目に、じっと見つめられて。



そうして食べたサンドイッチは―――。


いつもと変わらず、とてもおいしかった。

でも。


(もう、なにも食べたくない・・・)




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