君に、溢れるほどの花を
なんとかサンドイッチを食べ終わった雨流は、若干ぐったり気味に窓にもたれかかって、深く、ゆっくり、息を吐き出した。

そんな様子の雨流に、日向はさっきと打って変わってしゅんとした表情を向けてきた。


「ごめんなさい。でも、食べられるうちに食べといたほうがいいと思ったのよ。絶対、後悔することになるから」


(・・・後悔することに、なる?)


雨流は日向のその言い方に、どこか引っかかるものを感じた。
まるで、これからなにかが起きるとでも言うような・・・。
一体どういう意味なのかと、雨流は口を開きかけた、が。


しかしその瞬間、隣に座っていた灯影が突然はじかれたように立ち上がった。
いつもほんわりとした笑顔を浮かべている灯影には珍しく、険しい表情で、どこか遠くを見るような眼差しをして宙を睨みつけている。


「灯影・・・?」


雨流が呼びかけても、その声は届いていないようでなんの反応もない。
代わりのように、痛いほどの緊張が灯影から伝わってきた。

どうしていいかわからず、前の席に座る日向に目を向ければ、灯影同様に険しい表情で、自分の弟をじっと見つめていた。

それでも日向は、灯影に比べて多少は余裕があるらしく、雨流の視線に気づくと、いつもよりは硬いながらも笑顔を見せてくれた。


「雨流、悪いんだけど、少しここで待っててちょうだい」

「・・・?どこ、行くの?」

「ちょっと、お仕置きをするだけよ」

「??」

「灯影ったら、ダメよね。雨流を不安にさせるような態度をとって、あまつさえ雨流のことを無視するなんて。ちゃあんと、わからせてあげないといけないわよね」


ふふふっと、なんだか少し怖くなるような微笑みを残し、日向は後ろの車両へと消えていった。
日向の様子に気づき青ざめる灯影を引きずりながら。


(・・・お仕置き)


先ほどのらしくない灯影の様子も気になるが、不穏な空気を漂わせて日向が言った"お仕置き"のほうが雨流は心配になった。







「あの・・・姉さん、あれには―――」

「もう、隠れんぼは終わりかしら」

「え?」


見れば、あの不穏な空気は微塵もなく、日向はただただひたすらに、真剣な表情を浮かべていた。


「あ、うん。――僕の張った目くらましも破られちゃったみたい」

「なら、次は鬼ごっこね。のんびりできる時間もここまでかぁ、残念だわ」

「姉さん。こうなった以上は、少しでも早く雨流ちゃんを―――」

「ええ、わかっているわよ。・・・あちらへの道はすでに繋いでおいたわ」


そう言って、日向は黙り込んでしまう。
そんな日向の心中が、灯影には嫌というほどよくわかってしまい、かける言葉が見つからず、同じように黙り込むしかない。

しかしその沈黙は、「ところで、灯影」という日向の妙に優しげな声にあっさり破られた。

にっこりと、ステキに不穏なその笑顔に、灯影はこの先に待ち受ける己の運命を悟り、一気に顔を蒼ざめさせた。


(ああ、姉さん。やっぱりさっきのお仕置き発言は、本気だったんだね)




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