モノクロ
「そもそも相手もいないから、まだ、欲しいとかそういう問題じゃないよ」
「ま、そっか。それは確かに」
「私のことより、ショウはどうなの?」
「え? 俺? そりゃあ」
「って、あれ!? そう言えば、ショウ、時間はまだ大丈夫なの? 打ち合わせの時間をメールで話した時、5時前までしかいられないって言ってなかったっけ?」
「え、今何時……って、げっ! エンジェルハンターに間に合わねぇ!」
「は? エンジェルハンター?」
「俺ん中で超ブーム沸き起こってるアニメでさ! 学ランムーンの後釜って言われてて、超セクシーダイナマイツの変身ヒロインアニメなんだって! 超エロくておもしれぇから、アキも観てみろよ!」
「……。ねぇ、まさか、アニメのための5時……」
「当たり前だろ? 俺の楽しみのための5時に決まってんだろ?」
「……ですよね」
「今からダッシュすればギリ間に合う!」と言いながらそそくさと資料をカバンの中に詰め始めたショウを見て、私はハァと息をついた。
相変わらずの“ザ・オタク”だな……。まぁ、人のことは言えないけどさ。
ショウのオタク度はきっと一生変わりそうにないけど、それがショウらしいと思うし、揺るがないところは嫌いじゃない。
会社のエントランスでショウを見送る。
「じゃあまたな!」
「うん。ヨロシクオネガイシマス。」
「こちらこそ。ヨロシクオネガイシマス。」
お互いにぺこりと礼をして頭を上げて目が合った瞬間、ぷっと二人同時に吹き出してしまった。
手を振ってショウが会社の外に去っていくのを私は見送る。
と同時に、ショウの向かう方向からこっちに近付いてくるスーツの男性の姿に気付き、私の心臓がドキン!と大きく跳ねた。
……その人は、まさに会いたいと思っていた先輩だったから。
どうしよう、逃げるべき? でも、まだショウはそこにいるし、今逃げるとショウにも失礼だし不自然すぎる。
ふと先輩の視線がショウを捕らえ、外部の人間と気付いたからか、「こんにちは」と声を掛けてぺこっと軽く会釈した。
それに対してショウもぺこっと頭を下げる。
何だかすごく不思議な感じがして、私はつい見入ってしまった。
視界の端にショウが消えていくのを感じつつ、私の視線は完全に先輩に移っていた。
……わ。何かすっごく緊張してきた……!
変な汗もかいてきてしまって、このまま先輩に会うなんて無理だと思ったけど、私の足は動いてくれなかった。