殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 最初は軽いキスが、息継ぎの度に愛の言葉を囁かれ何度も戻ってくる。

その度キスは次第に深くなり陽子に翼との愛の行為に溺れていた。


(イヤだ!! 翼は翼よ。翔さんである訳がない!!)

翼の遺体を見た以上、否定できない真実がある。
それでも陽子は心は心の中で叫んでいた。




 そんな時陽子は、翼と見た数々の大樹を思い出した。


西善寺のコミネモミジ……
清雲寺の枝垂れ桜……
今宮神社の駒つなぎの欅……

それらに見入った翼。


でも陽子は、大樹と言う言葉が一番合うのは翼だと思った。

そして、翼こそ自分を照らしてくれた太陽その物だと思った。


翼は自分の全てだったと。


その時陽子は思い出した。

清雲寺の枝垂れ桜を見ていた翼に翼があった日のことを。

その姿を見て陽子はハットした。


(翼がある!!)
陽子はその時確かに翼の背中に羽のような物を確かに見たのだ。


(翼……)

陽子はその時又俯瞰と言う言葉を思い出した。

(翼……あなたの名前は翔さんのためじゃないわ。きっとお母様が一番相応しい名前を付けてくれたのよ)

確かにあの時はそう思った。
でも今考えると少し違うように思えた。


子供の頃に亡くなった翼はきっと天使かキューピットになったのだ。
でも、それすら忘れていたのだ。

愛されたいと一心に願いながらも、叶わなかったために。




 (翼……もう少し早く出逢っていれば良かったね。そうすればこんな辛い思いをしなくて済んだのかも知れないね)




 魂を翼自身に返そうとして、遺体を埋めた翔。

そのために追い出そうとしたのだろうか?

だから三峰神社に向かったのだろうか?


翔は知らなかったのだ。三峰神社が本当は縁結びのパワースポットだと言うことを。


(お母さんは何も悪くない。みんな私が気にし過ぎていたからなのね。お母さんごめんなさい)

陽子は気付いていた。
節子が翔にうっかり話してしまったのではないのかと。


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