溺愛トレード
────「実は、実乃璃のことは子どもの頃から知っていました」と、儚さみたいなものを身にまとい、なんだか高そうなワインをこれまた高そうなグラスに注いで瀧澤さんは目の前に広がる夜景の海に目を細めた。
ソファーに座る様さえ、庶民とは違う。御曹司様は、背もたれも肘掛けも最大限に有効活用できるように自分の体を預けて座るんだ。
背もたれに寄りかかることすら申し訳なさそうに椅子の端っこにお尻をちょっと預けて「このワイン、めちゃくちゃウマイッ! ラッキー!」とかときめいてる場合じゃない。
「私も、実乃璃とは子どもの頃からの付き合いです。家が近所でした」
実乃璃と知り合ったのは、私たちが十歳の時。
近所の公園で遊んでいた私たちの輪に、お姫様みたいな女の子が近づいてきた。
実乃璃は今より、かなり内向的で「あーそーぼー」と聞こえないくらい小さな声を出した。
「誰、この子?」
「知らない。そんなスカート履いてたら、ブランコにも乗れないし、滑り台も滑れないよ」
十歳だって、女は女だ。
友達はみんな、いきなり現れた子を自分たちの仲間に入れたりはしない。