合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず
「おい水木、俺の重りも調節しろ」
聞きなれた声に振り向くと、何故かそこに山城一騎がいた。
「えっ、なんであんたがここにいるのっ?!」
「俺だってここのジムの会員ですよ。いちゃ悪いですか?」
「だって、今まで会ったことなんて……」
「それは春さんが気付かなかっただけで、僕は何度も見かけてますよ」
「へぇ、そうなんだ」
「おい、水木、いい加減、春さんから離れろっ!」
身を乗り出すように片手を伸ばし、山城が水木君の肩をどついた。
「僕はマシンの使い方の指導をしてるだけですからっ!」
少し怒ったようにそう言って、それでも渋々水木君はわたしの後ろから立ち上がると、山城のマシンの重りを調節すべく隣りのマシンへその身を移動させた。
密着した熱が一気に冷めていく。
あぁ~、心臓に悪かったぁ~
「山城先輩は、ちょっと重めで腰鍛えた方が身の為っすよ」
水木君はマシンを調節しながら、その爽やかな笑顔に不似合いな毒を吐いた。
「先輩?」
「そうです。山城先輩は僕の大学の3年上で、ワンゲル部の先輩なんで」
「ワンゲル……、山登り?」
「正確にはワンダーフォゲル、野外活動部です。
山登りだけじゃなくて、サイクリングや山スキー、川くだりとかもやりますよ。
まぁ、所謂アウトドア全般です」
「へぇ~、水木君はわかるけど、山城がねぇ~」
確かに、細身な割りに筋肉質な身体してるなと、わたしは改めてマジマジと山城を見た。