真夜中に口笛が聞こえる
 それから一週間以上が経ったある日のこと、信一郎が不動産会社へ確認のために電話で問い合わせたところ、全て売約済みになっている旨を知らされた。

 その日の夕食時、信一郎はそのままの内容を、美咲に伝えた。
 残業で信一郎の帰りが遅かったせいか、娘の美佳は、奥の部屋で早々に眠っている。

「美咲、売れちゃったみたいなんだ。あの時の区画。勿論、白い物件も含めてね」

 信一郎が話しているうちに、美咲から笑顔が消えて行く。
 全区画が売れてしまったことを付け加えた。

「私達、出遅れたのかしらね」

「必要な検討期間だったと思うよ」

「そうよね」

 自ら納得する為の時間でしかなかった。
 信一郎が持ち出した話のせいで、会話のない夕食になってしまった。


 あの白い物件は、美咲にも信一郎にも魅力的だった。
 しかし、他の誰かが住むことになるのだ。

 普段通らない道なので問題はないが、よく通る道なら、いちいち今回のことを思い出すかも知れない。

 だから、本当に良かったと思う。

 きっと、忘れることも容易(たやす)いだろう。

 信一郎はそんな事を考えながら、布団の中で眠りに落ちた。
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