真夜中に口笛が聞こえる
 美佳を挟んで、手を繋ぐ。特にショックというほどでもないが、考えてみれば、こんな風に家族で歩いたことは一度もなかった。

「あれ、スカートを履いてるね」

 歩き出してすぐに、信一郎が美咲の服装の変化に気付いた。
 沢山のつる草模様の付いた、上品な白地のスカートだった。
 奥の部屋から出てきたタイミングで気付かなかった自分が、少しばかり情けない。

「いつも履かないよね。スカート」

「気分が変わったのよ」

「そうか」

 信一郎はそれ以上、聞かなかった。美咲は美咲なりに、新しい環境について考えているのだろう。

「ねえ、一軒だけの住人って、変わってるわよね」

「どうだろう。近所付き合いもない訳だから、むしろ、その方が気楽かも知れないよ」

 その理由なら、自分達にもよく分かる。もうマンション暮らしには戻れない。

「あれ見てよ。ゴミよ」

 その住人の家の裏地には大きな穴が掘られていた。生活ゴミや粗大ゴミが、無造作に放り込まれていた。

「テレビがあるぞ。不法投棄じゃないか。それとも、自分の土地なのかな」

「そんなことよりも、夏場に臭わないかしら」

「大丈夫だろう。うちの方が風上だし」


 三人は表に回わり、その家の門の前にたどり着いた。



第二章

「新生活」

完結
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