真夜中に口笛が聞こえる
「いらない」

 美佳は早口にそう言うと、妻の後ろに隠れてしまった。美咲のスカートを握っている。

「こら美佳。どうも、すみません」

「いえいえ、いいんですよ。可愛らしいお嬢さんで、羨ましい……。家はですね、子供がいないんですよ。それで、この庭の植物が代わりみたいなもので、こんな風になってしまって。家内にはよく怒られるんです。庭の世話ばかりするものだから……」

 信一郎は笑うところだと思って、精一杯に作り笑いをした。妻が自然な笑顔をしていたのをみて、感心した。

 しかし、美夏は完全に妻の後ろに隠れて、様子を伺ってる。

「それでは、長居しましてすみませんでした。どうもお邪魔しました。これからも、宜しくお願いします」

 信一郎は軽く頭を下げた。

「いえいえ。こちらこそ、宜しくお願いしますよ」


 三人はまた、鬱蒼と茂った数メートルを通り、門から外へ出た。
 再び夫妻が振り返ると、白河はこちらを見ていた。

「それでは、失礼します」
 信一郎が最後に挨拶すると、白河はニヤリと笑い、こくりと頷いた。

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