真夜中に口笛が聞こえる
 白河の家を出て、暫くは無言で歩いた。
 まだ、後ろから見られている感じがして、信一郎は肩の力が抜けなかった。

「ねえ、信ちゃん……」

 沈黙を破ったのは、美咲だった。歩く速さは変わらない。

「信ちゃん。どう思う?」

「どうって?」

「あの人。白河さん」

 聞かれた信一郎の方が困った。先に言いたくない。

「美咲こそ、どうだったんだよ」

「私? はっきり言っていい?」

 横顔で話していた美咲が、信一郎に顔を向けた。
 美咲の眉毛があがる。

「あのね……。ちょっとおかしい……かもね」

「おかしい?」

「あの庭は異常でしょう? だって足の踏み場も無かったわよ」

「そうだな」
 美咲も同じ事を思っているらしい。

「しかし、よっぽど好きなんだな、ガーデニング」

「ちょっと、度が過ぎているわね。それに、美佳のいる前で、血の話をするし」

 美咲がそう言った時、
「お母さん……」
 と美夏が小さな声で呼んだ。

「私、あのおじさんが、怖かったよ」

 美佳は美咲のスカートを掴んでいた。あの家からずっと、掴んでいたに違いない。

「怖かったのか?」
 信一郎は立ち止まってしゃがむと、美佳のほっぺたに両手を当てる。

「うん」

 美佳は小さく頷き、心配そうに二人を見上げる。
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