真夜中に口笛が聞こえる
 次の日、プランターの土の上に、貼り紙があった。

 雨の日でも大丈夫なように、ビニールを被せてあった。


 貼紙には、こう記されていた。

 「ここに植えてあった私の愛しい薔薇、『ワイルド・レドリック』を返して下さい。白河」


 達筆だった。ハネやハライが特に強調され、力強く書かれた文字だった。

 美咲がゴミを出した帰りに公園を通ると、確かに昨日まであった薔薇が、消えていた。

 それがワイルド・レドリックという名の薔薇であることまで、流石に美咲は知らない。

 火傷しそうなぐらいの奇抜な赤ピンクに、クシャクシャに潰したような密集した花びら。

 確かそんな風に憶えている。
 美咲が嫌いな感じの色なので、逆に良く憶えていたのだ。


「ア、アタシ、知らないわよ」

 ごっそりと引き抜かれたようで、プランターの土にぽっかりと穴が空いている。

 先に子供と公園に来ていた時子が、腕を組んで言った。

 しかし、そこは確かに、時子が蹴ったプランターに違いなかった。


「なら、誰かしら?」


 美咲は凹んだ土と、貼り紙を眺めていた。

「さあね。でも、子供が遊ぶ公園に薔薇を植える方が、おかしいのよ。盗まれてざまあみろ、だわ。他の薔薇も引っこ抜かれればいいのよ」

 時子は吐き捨てるように言う。

「私達……、疑われるわよ」

「そうね。でも、知らないものは知らないわよ。アタシが犯人になってやってもいいぐらいよ」

 周りに聞こえるぐらいの声で言った。

 時子は完全に開き直っていた。

 

第七章

「新たな家族」

完結


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