真夜中に口笛が聞こえる
 丘に向かって吹き上げる風が、信一郎を包む。そしてその風に合わせるように、信一郎は大きく息を吸い込んだ。

 清々しい。
 信一郎は、そう思った。

「信ちゃん、家の中を見ましょうよ」

 美咲が新築の入り口に回る。

「とりあえず、この白い家からだね」

 信一郎は、すぐに目に付いた家を指差した。

「全部見るわよ」

「えっ、確か八軒もあるよ」

 全部で十区画、そのうち八軒が建て売りで分譲されている。

「いいじゃない。初めから全部見に来たんだから」

 美咲はさっさと白い家に入っていく。

「庭は見ないのか? 外構とか」

「もう十分見たでしょう?」

 美咲の声は、既に家の中から発せられていた。空間に放たれた声は、家の隅々まで響いている。


 その白い家には、小さな公園が隣接していた。
 小さな鉄棒と焦茶色のベンチ、それに花壇がある程度だ。簡素だが、可愛らしい公園であった。

 信一郎はそのベンチに座ってみた。体重を掛けて、背もたれに身を任す。

 顔を自然に上げると、その白い家の壁を眺める格好になる。そこに窓が付いており、開けた途端に誰かと目が合うなんてことも、ありそうだ。

「なぁ、美咲。公園のベンチが、この家の方を向いてるぞ」

 信一郎は、中を物色している美咲に話し掛けたが、答えは返って来ない。

 仕方なく、溜め息を一つ付いたところ、二階のベランダから元気良く美咲が顔を出した。

「信ちゃん、早くいらっしゃいよ。私、かなり気に入ったわ」

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