真夜中に口笛が聞こえる
「めずらしいな。一軒目から気に入るなんて」

「そうかしら」

 美咲が数軒しか見ないで、気に入った、と言ったことはなかった。妻は最後に感想を言うタイプの女だ。

「今、そっちに行くよ」

 ベンチから立ち上がり、公園の向側の家が目に入った。

 売り物件ではない。元々建っていた家のようだ。
 古くもない平屋に、プランターがところ狭しと置かれ、色とりどりの草花で囲まれている。

 花には詳しくない信一郎だったが、それが綺麗なことぐらいは分かる。
 食べられそうなものが植えられてなさそうなので、どうやらこの家の人間は、とにかく花が好きなのであろう。


 信一郎は再び、白い家の方を向いた。
 玄関に回って、中に入った。

「美咲、どこだ?」

 玄関は吹き抜けで、圧迫感がまるでない。内装は外の色と同様に、上品な白で統一されていた。

「信ちゃん、見てよこのキッチン。こっちこっち」

「おいおい。行くから靴をキチンと脱がせておくれ」

 美咲がどこからともなくやって来て、信一郎の腕を引いた。
 モデルハウス慣れしている妻が、こんなにも心踊っている姿をみて、信一郎も嬉しくなった。
< 10 / 96 >

この作品をシェア

pagetop