ピエモンテの風に抱かれて
幼なじみの大スター
『ジュリ! 日本からのグループだけど、空港に迎えに行くの2〜3時間遅らせていいぞ。乗り継ぎのパリで、機体がトラブったらしい』
『はーい。わかりましたー』
樹里が勤めるのはトリノにある旅行会社。
語学留学をしていた日本人の母が、イタリア人の父と結婚して永住を決めた。そんな両親を持つ彼女は、両国語が話せるという特技が充分に生かされた職場にいる。
− 日本人観光客が本当に増えたわよね。まだイナバウアー効果が続いてるって凄いな −
冬季オリンピックのフィギュアスケートで金メダルを取った新川静華選手のお陰で、トリノは日本でも一気に知名度をあげた。
華やかな歴史と文化を持ちながらも、ローマ・ミラノ・ヴェネチアといった有名どころに比べると、少しマイナーな都市であったのに。
「えーっと、2・3時間も空いたから…、先に出来ることはやっておこうっと」
事務所の壁に掲げられている大きな世界時計をチラリと見て時差を確認すると、受話器をあげた。
「………はい、そうです。やはりホテルは日本の方があまり泊まらない郊外にあるオーベルジュの方が喜んでくれると思うんです。
近くには日本では売られていない美味しいワインを造るワイナリーもありまして………詳しくはメールを見ておいて下さい」
はあ、と一息ついて電話を切る。日本語を話す度に思うことがあった。
− リュウ、どうしてるのかな… −
右薬指に光る指輪を見ながら感慨にふける。龍と離れて4年の歳月が流れていた。
それでも最初の2年は日本へ遊びに行き、彼と甘い時間を過ごしたものだった。
゛年に一度の再会なんて織姫と彦星みたいだね ゛
そんな溶ろけるような会話をした。しかし幸せな時間は束の間だった。
龍が出演したドラマが予想外に大ブレイクし、更に映画化までされために、3年目の再会が急遽キャンセルになってしまったのだ。連絡が徐々に途絶えていったのはその頃からだった。
気づいた時には、電話番号もアドレスも使われなくなっていた。
もちろん家族ぐるみの付き合いであるから、連絡を取ろうと思えば出来たのだが −。
− リュウは忙しいの。邪魔しちゃいけないのよね −
心の中で何度も自分に言い聞かせる。樹里は彼からのアプローチを待ち続けていた。
仕事の合間にパソコンの前に座ると、少し周りを気にしながら、こっそりとマウスを動かし始めた。
< 真田 龍 >
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一番上にある公式ホームページをクリックしようとすると…
『シトティジェーラシ? 仕事中だぞ』