ピエモンテの風に抱かれて
樹里の心臓がドクンと波打つ。
− リュウ、嘘でしょう? −
記事によると、相手の女性は同じプロダクションに所属し、ミュージカルでも共演しているダンサーを兼ねた役者だった。主人公の龍に憧れるというチョイ役に過ぎないが、彼女がキスを迫るシーンがあるらしい。
舞台でそんな演技をしている内に、プライベートでも親密な関係になったのだろうと書かれていた。
ドクドクと次第に早くなる鼓動。詰まりそうになる息 −。
この時樹里は、初めて自分の本当の気持ちに気づかされた。
− 忙しいから邪魔しちゃいけない…? −
何て綺麗ごとを言っていたのだろうか。本当はただ、
そう、ただ単に…
彼の気持ちを確かめるのが怖くて、勇気が出なかっただけなのだ。