ピエモンテの風に抱かれて

トゥルルルル…という携帯の着信音が辺りを響かせた。



まだ立ち上がれないまま、地面に投げ出された携帯に手を伸ばす。ボンヤリと着信画面を見ると、会社の上司からだった。



『は…い…』



『ジュリか? 頼みがある! 大変なことになったんだ』



大変なこと、と言われてもまだ上の空だ。そんな彼女に言い渡されたのは −。



『明後日から東京を中心にした団体ツアーが出る。突然だが、その添乗…………』



何が重要なことを言っているらしい。しかし右の耳から入ったそれは、そのまま左へと抜けていく。ボウッとしながら他人事のように聞き返した。



『何か…、あったんですか?』



『だから! 東京への添乗員をお願いしてるんだ。予定していたのが足を骨折して入院してしまったんだ』




− 添乗…員? 東京に!? −




何というタイミングなのだろう。もちろんです、と、二つ返事をしたいところだが問題もあった。



『わ、私はイタリア国内のガイド専門で、海外への添乗なんて研修の時に一回行っただけで…』



電話の向こうの上司の声は樹里を安心させるかのように少し明るさを帯びた。



『いや、ジュリならきっとうまくやれる。他に日本語を話せるのがいなくてね。成田空港にさえ着けば向こうのスタッフが出迎えてくれるし、宜しく頼むよ。この通りだっ』






これは運命なのだろうか。真実を確かめるための…。





− 私 −







− 私… −






















− リュウに会いたい… −

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