ピエモンテの風に抱かれて
日本へ…!

イタリア語と英語で流れる場内アナウンス。



大きなガラスの向こうに見える滑走路。



数分おきに、ゴオォォっという号音と共に大空に飛び立っていく飛行機 −。



樹里にとって、あまりにも慌ただしい一日半が過ぎた。



ツアーが出発する4時間前には空港に到着して下準備を終えると、もう一度荷物を開けた。




− これだけでも絶対に渡したいな −




それは龍が大好だと言った、祖父が造った赤ワイン。



そしてパスポートのメモ書き欄をしみじみと見つめた。そこには龍の携帯と、日本の自宅の番号が記されている。



イタリアに住む龍の母方の祖父母に電話をするのは久しぶりだった。事情を話して彼の連絡先を調べてもらったのだ。



もちろん何度も発信しようとしたが、その度に手が止まってしまう。




− いきなり電話なんかして、もし冷たくされたら… −




心を入れ替えたはずが、そんな想いが邪魔をする。どうしても勇気が出ない。樹里は怖くて仕方なかったのだ。



すると突然、耳元で聞き慣れた声がした。


























『なに暗い顔してんだよ』

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