ピエモンテの風に抱かれて
目の前のベッドに座り直した飛鳥は足を組むと膝に頬杖をつき、樹里の顔を下からしげしげとのぞきこんだ。
「そう。ジュリはイタリアにいるのよ。道のど真ん中でキスしてるカップルがいても、誰も気にしないような国にね。
とっくに彼氏ができたと思われても、不思議じゃないでしょ」
「え〜、わたし他の男性なんて…」
苦笑いをしながらビールを口にすると頭に浮かんだのは、なぜかサーシャの姿だった。
常に外見に気を配る隙のない出で立ち。よく響く艶のある低い声。筋張った長い指をもつ綺麗な手。バスケで鍛えた引き締まった身体。光沢のあるフワッとしたブラウンの長髪。
深い森を思わせる神秘的な碧色の瞳は、時々鋭い眼差しに変わって見る人をドキッとさせる。
同じ美男でも、いつも元気いっぱいで優しい龍とは全く違う。サーシャの素っ気ない冷血漢さながらの態度には翻弄させられることが多く、自分の中では決して好みのタイプではなかった。
なかったはずなのに、
− 『何かあれば電話していいから』 −
空港で言われた、あの台詞が甦ると…、
飛鳥がニヤッと笑い、からかうような上目遣いをした。
「ねえ…、サーシャとはどうなのよ? あんなにイイ男がそばにいるのに」
ズバリ心を読まれた樹里は、思い切りむせそうになった。
「ケホッ、なななな…、なにをいいだすんですか!?」