ピエモンテの風に抱かれて
『ちょっと! サーシャ以外の二年生、ヘタレすぎ!!』
『ああっ! どうしてそこでサーシャにパスしないのよ〜!?』
体育館に轟く叫び声。特に樹里の真後ろにいる女の子の集団は、横断幕まで掲げている。異様ともいえるボルテージだ。
− サーシャがこんなに人気あるなんて… −
本当は試合なんて興味がなかった。龍の親友といえど昨日会ったばかりの、しかもあまり感じの良くない彼だ。とりあえず来てみた、というのが正直なところだった。
しかしこれだけの声援を受けるサーシャを注意深く眺めると、確かにその活躍は一目瞭然だった。あの機敏な動きは動態視力も抜群なのだろう。敵の攻撃をサラリとかわし、
スポーツ選手にしては長めの髪をなびかせながら、誰よりも高いジャンプでゴールを決める姿に圧倒される。
野性的だが優美で精彩。まるで羽を大きく広げた鷹が、無駄のない動きで狙った獲物を仕留めているかのようにも見えた。
しかし気になったのは、どんなに三年生チームとの得点を引き離そうともニコリともしないことだ。昨日受けた印象そのもの、無愛想や冷血漢、という言葉がピッタリではないか。
どうしてそんな彼に惹かれるのだろう? 理解に苦しんだ樹里は、つい隣にいる龍に耳打ちした。
「ね、リュウ? あの後ろにいる子たち、みんなサーシャのファンなの?」