ピエモンテの風に抱かれて
「気になんの?」
龍はいつもこの手の質問に即答しない。悪戯っ子のような笑みを浮かべては、樹里の反応を見て面白がるのだ。
「だってリュウは地元じゃ顔が知られてるし、何の取り柄もない私みたいなのが彼女だなんて、面白くない人だっているんじゃ…」
自信なげにそう言うと、龍はやっと返事をする。
「そんなこと言うなよ。大丈夫! ファンクラブみたいなのはあったけど、昨日で解散したらしいよ。メッチャ愛してる彼女が入学してくるって言ったら、みーんな引いてたから。俺はジュリが来てくれてホントに助かったーー!」
「た、助かった?」
「だってさあ、いつも稽古で忙しいって言っても積極的なコが多いんだ。遊んでる暇なんて、全然ないっつーの。それにさ、同じ学校に彼女がいればさすがに手出ししてこないだろ? それに引きかえサーシャは大変だよなあ…」
龍は別に女性に興味がないわけではない。かと言って、欧米では当たり前にいる同性愛者でもない。とにかく自分の好きなものにしか目がいかないたちなのだ。改めて彼の特殊な性格に気づくと、樹里はフフッと笑ってしまった。
「リュウって本当に変わってる」
「え、なんでだよ? 俺はいたってフツーだよ」
「全然普通じゃないってば…」
肘で軽く龍をつつくと、彼は頬に優しくキスをしてきた。そんな小さな幸せに照れくささを隠せない。
「そ、そうよ。そう言えば試合は?」
再びコートに目を走らせると、
ワァー! という今までで一番高い歓声が体育館に響いた。時間切れと同時に最後の一点をサーシャが決めたところだった。龍と目を合わせて苦笑する。
「やだ、私達ったら全然試合を観てなかったわね」
「結果は分かってたからね。構わないよ」
するとコートの中では、仲間と肩を寄せ合うサーシャがいた。
その彼の表情には……
− ん…? −