ピエモンテの風に抱かれて
『誰もー! 寝てはならぬぬうぅ〜〜〜♪♪』
バンッ! という音をたててドアが開くと同時に、かの有名なイタリアオペラ < トゥーランドット > が大音量で響き渡った。
その歌声の持ち主は、小柄ながらも威圧感たっぷりのメタボリック系の男性。
『リュウ、色仕掛けに騙されるなよ? 君はオペラ歌手になるべきなんだ!』
いきなり登場した邪魔者に、彼女は8頭身美人らしからぬ振る舞いで、チッ、と舌打ちをした。もちろん龍には聞こえないように。
『あなたもしつこいわね。いい加減に諦めたら? リュウにはバレエが向いてるの。みんな素敵な王子を待ってるのよ!』
『フン、それだったらオペラだって同じさ。リュウのテノールは最高なんだ。声だけでも女を墜とせるぞ!』
『黙らっしゃい! リュウがあなたみたいなメタボになったら、どうしてくれるの!?』
『失礼な! これでも体脂肪率は低いんだっ』
泣く子も黙るトリノを代表するオペラ歌手と、トップバレリーナが、龍のスカウト合戦に火花をちらす。
『ま、まあまあ、落ち着いて下さい。俺は体験レッスンをしにきているだけですから』
龍が両手をかざして二人を静めようとすると、ドアをノックする音が聞こえた。
『失礼します。レッスンは終わりましたか? リュウ、忘れ物を持ってきたわよ。そろそろ移動しないと』
「ジュリ!」