ピエモンテの風に抱かれて
龍は女子アナと男性芸人の目を交互に見つめながら話はじめた。
「僕は純粋なイタリア人でもなく、かといって日本人ぽくもない。いつも不思議そうな顔をして、どこの出身? って、聞かれることが多かったんです。
日本では必ず外人扱いされるし、自分はいったいどの国の人間なのだろう、どの世界に属すのかと、悩んだ時期がありました」
ハーフ特有の悩み。それはきっと当事者にしか分からないだろう −。
樹里自身、青い瞳を持ちながら、母親譲りの真っ黒なストレートヘアとあまり彫りが深くない顔立に、幼い頃から、あなたは東洋人みたいね、という言い方をされることが多かった。それは子供心にも妙な疎外や孤独を覚えたものだった。
だからこそ、同じ境遇で気持ちを分かち合えた龍が、かけがえのない存在だったのだ。
飛鳥も樹里の気持ちを何となく理解しているのだろうか。黙って頷きながら聞いている。
するとテレビの中で龍が話題を変えようとしていた。
「僕のルックスよりも、少し喉が渇いたんですが。この中のものを頂いても構わないんですよね?」
「あ、気づかなくてすみません! 真田さんはお酒にも強いと聞きいてますよ。どうぞお好きなものを選んで下さい」
− 結構いいワインが並んでるから、リュウだったらこの中から選ぶんじゃないかな −
樹里がそう思ったのも束の間、彼が指したのは意外にもアルコール度数が低い林檎酒のシードルだった。
「あの…、これはほとんどジュース感覚だと思いますが、これでいいんですか?」
龍はニコッと微笑むと明るい声で返した。
「はい。イタリアでは幼なじみのお祖父さんがワイナリーを経営していたので、ワインなら浴びるように飲んでいたのですが…」
それを聞いた飛鳥が樹里を肘で突いた。
「ほら、幼なじみって、ジュリのことでしょ」
「え、ええ。なんか嬉しいです」
きっと龍の生い立ちから話は始まるのだろう。さあ昔話に花が咲くかと思いきや…、
「でも落ち着いて飲んでいる時間があまりなくなって、めっきりお酒には弱くなってしまいました。二日酔いもするようになったし、今ではほとんど飲まないですね」
− リュウがお酒を飲まなくなった? −
樹里は愕然とし、バックに忍ばせている祖父のワインを思い浮かべると、ギュッと胸を押さえた。