ピエモンテの風に抱かれて
番組が終わってテレビが消される。リモコンを静かにテーブル上に置いた飛鳥は、樹里の反応を確かめるように小さく口を開いた。
「演技の稽古ね…。うまい言い訳に聞こえたけど、ジュリはどう思う?」
彼女の声が聞こえていないのか、樹里は険しい表情で考えこんだままだった。
「ジュリ?」
「あ、すみません。そう信じたいですけど、リュウは左手を使っ……、あっ」
うっかり口を滑らせてしまうと飛鳥の勘が働いた。
「左手? そういえばリュウは元々左利きなのよね? 訓練して右も使えるようになった話は有名だけど…、さては何かに気づいたとか?」
そこまで言われてしまうと樹里も正直になるしかなかった。
「…キスの稽古をしてたって言った時に、リュウは左の手を使ったんです。彼は嘘をついたり隠しごとをする時に必ず左手を使うんです」
それを聞いた飛鳥は仰天した。
「リュウにそんな癖があるの!? さっすがジュリ!」
「あ…、このことは誰にも言わないで下さいね」
「もちろんよ! でもちょっと待って? だとしたらキスの相手は本当の恋人ってこと…?」
核心を突かれてしまう。ズンッ、という音を立てながら、樹里は心臓に太い矢が刺さったような気がしていた。