ピエモンテの風に抱かれて
『ああ、ジュリさん…。すごくショックだよ。さっき乗ったケーブルカーの中に忘れ物してしまって。せっかくの孫への土産が。うっうっ…』
おじいさんをなだめるように、おばあさんが肩に手を置いている。
『つい楽しくて写真を撮るのに夢中になってしまったの。気がつかなかった私もいけないんだけど』
こんな時こそ自分の出番ではないか。樹里はバックからサッと携帯を取り出した。
『そういう時は問い合わせます。戻ってくるかも知れませんよ』
『そりゃいくらなんでも無理だろう? 誰かに盗られてるに決まってる』
『いえいえ、ちょっと待って下さいね』
こんなこともあろうかと、あらかじめ登録しておいた忘れ物センターに電話をする。しかし夫婦は全く期待していないのだろう。完全に諦めモードのままだ。
すると少し時間をおいた後に返事が返ってきた。
『ありました! ちゃんと駅に届いてるそうですよ。運が良かったですね』
まだ狐に包まれたような顔をしていた彼らがやっと口を開いた。
『え? まさか!? 』
『おいおい嘘だろ!? そんな国があるのか?』
『日本は治安がいいんですよ。私が取ってきますね。アスカ先輩〜! 出発時間遅らせて下さい。30分で戻ります』
ツアー客にかいがいしく世話をやく樹里を見送りながら、飛鳥がつぶやいた。
「あの子、まだまだ雑なところはあるけれど、よくやってるじゃない。感心するわ」