ピエモンテの風に抱かれて
着信拒否の顛末
「そんなそんな…。まさかこんなことになるなんて!!」
樹里は完全にパニック状態になってしまった。飛鳥も、あ〜あ、といった顔をしている。
「間違い電話だと思われたのね。でもそれだけで着信拒否されたってことは…、芸能人はそれだけ警戒心が強いと思うしかないわ」
「でも…、でも、番号を見ればイタリアからだって分かるじゃないですか。私からだって気付いて拒否したん…じゃ」
やはり昔の恋人なんて邪魔なだけなのか? 本当はあの彼女と隠れて付き合っているに違いない…。良からぬ考えが次々と頭を過ぎる。悪い方向に考えればキリがない。
既に涙目になっている樹里を少しでも落ち着かせるように、飛鳥はしっかりと彼女の両肩に手を置くと真っすぐに視線を合わせた。
「そんなわけないでしょ! 忙しくて番号なんてよく見なかっただけよ。ね、だったら次は自宅にかけてみるのは?」
飛鳥の凛とした態度に励まされると、こんな時に一人でなくて良かったと、つくづく思い知らされる。溢れそうになる涙をこらえて、
「自宅に…? そうですね、もうそれしかないですよね。かけてみます!」
そう言って腹を決める。一刻も早く龍と話したいという気持ちが高まっていた。
「番号をよく見てね」
「はい!」
言う通りに慎重にダイヤルすると、たった2回の呼び鈴で相手の声が聞こえてきた。
< はい、真田です >
− リュウのお父さん! −
「あ、あの! わたし、ジュ……」
<せっかくお電話頂きましたが、7月20日まで旅行で留守に……> 」
− 今度は留守番電話? −