ピエモンテの風に抱かれて
狭い車内でほのかに香るのは龍のつけている香水。さっき感じたシトラス系だけでなく、日本人らしいグリーンティーがミックスされたような落ち着いた香りだ。
その心地よさだけでもクラクラしてしまいそうなのに、髪をかきあげた彼の綺麗な指先にはネイルまで施されており、つい目を奪われてしまう。
髪の間からのぞかせているのは翡翠と思われるピアス。角度によっては薄い緑にも見える亜麻色の髪によく似合っている。
− 写真やテレビで見るよりもずっと素敵になった… −
そのまま彼に寄り添ってしまいたかった。何もかも忘れて −。
しかし音信不通になってしまった歳月が邪魔をしていた。話さねばならないことが、あまりにも多すぎる。
まずは頭の中を整理しようと外の夜景に目線を移すと、隣にいる龍が何かを言いかけた。
「ジュリ。俺は…、てっきり……」
「え?」
何か大事なことを言おうとしたのでは? 急いで聞き返そうとしたちょうどその時、車が止まった。