片恋綴


「おはようございます」

一軒の小さなカフェ。小さな狭い世界で暮らしていた私が働くに相応しい場所。

高校を卒業するとき、勉強があまり得意でないということの他に、人が大勢集まる大学などという場所に行くことが想像出来なかった。

別に人付き合いが苦手というわけではない。普通に話せるし、人見知りもとりわけない。それでも、大勢の人がいる場所に身を置く自分の姿が私の頭には想像し難かったのだ。

だから何処かに就職、ということも考えられず、この小さなカフェで働き始めた。時給はそんなによくはないが、実家で暮らしながらこつこつと貯金をし、二年前に一人暮らしを始めた。

理由は、特にない。

自立したかったとか、親に迷惑掛けたくないとか、そんなことでもない。ただ、大人って一人暮らしをするものだと思っていた。

それを否定する友人も、肯定する友人も私にはいなくて、親もいい意味で放任主義なのでそれは実現した。



< 10 / 146 >

この作品をシェア

pagetop