片恋綴
私はやっぱりとてつもなく狭い世界に住んでいる。
「琴子先輩、おはようございます」
祐吾君の想い人が丁寧に頭を下げてきた。礼儀正しくて凄く可愛い女の子。
「おはよう」
私が言うと、琴子先輩の笑顔綺麗、と洩らす彼女。
「私から見たら貴女の方がよっぽど綺麗」
私が言うと、背後から笑い声が届いた。少し低い、それでいて癖のある声。
「琴子ちゃんて、天然でたらしだよね」
私より一つ上の男の人で、彼はこの店の常連だ。
少し薄暗い店内には優雅な音楽が流れていて、店員は店長を除いて三人。そのなかの常に二人が出勤するシフト。
何処か大正時代を思わせる造りの店内を私は気に入っていて、それと同じように思うお客様が多い。だからか、この店は一見さんよりも常連客のが圧倒的に多いのだ。
「そうですか?」
私が首を傾げると常連の彼はうんうん、と頷いた。何処か意地悪そうな顔立ちではあるが、実際はそれなりに優しい。
そう、それなりに。