片恋綴

「ごめんなさいっ」

私が慌てて謝ると、原崎さんは自身の唇に人差し指を当て、しぃ、と言った。そこで私は他にも客がいることを思い出し、手で口を塞いだ。

「わかりました。そのまま伝えておきます」

原崎さんはふう、と溜め息を吐いた。もしかしたら、少し失礼なことをしたのかもしれない。

幾ら、好きな人がいるからといって、友達からでいいという話を断るなんて。それも嘘を吐いて。それでも今の私にはそれ以外の術が思い付かない。

……私は本当に狭い世界で生きてきた。

人付き合いが苦手というわけではない。ただ、当たり前のことがわからなかったりするだけ。

それは私がその狭い世界から出るつもりがなかったから。それが今の私。

それでも好きな人がいるのに、他の男の人と、それも私に好意を抱いている人と親しくなるなんて想像がつかなかった。相手に悪い気がするなんて、ただの自惚れだろうか。

「だってさ」

原崎さんが言うなり、近くにいた客が立ち上がった。帽子を深く被っていたし、接客をしたのがあの子だったので気付かなかったが、それは以前原崎さんと一緒に来た人だった。

彼の顔を見た途端に恥ずかしさが込み上げる。



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