片恋綴


現像液の中を静かに潜らされる紙にはうっすらと人形が浮かんできた。少しだけ遠目に写る人が。

「……心霊写真だったらどうしよう」

原崎さんの呟きに背筋が寒くなった。そう言われると、佐南さんが仕事以外で人物を撮る姿が想像出来なかった。

佐南さんは三十歳手前で独身。でも恋人の陰はなし。それなら人物を撮るのは考えられない。

それでも浮かび上がってきているのは人で。実は景色を撮ったのに何かが写り込んでいるとか……。

やっぱりやめませんか、と言っても今更遅い。それはどんどん形を成してきて……。

「……やっぱりね」

現像液から写真を取り出した原崎さんがぽつりと言う。

そこには小柄な女性が写っていた。紛れもなく心霊写真ではなさそうで、そこには何か色んなものが詰まっているように思えた。

愛しさとか、切なさとか、強い想いとか、淡い想いとか。

一枚の写真に全てが詰まっている。

原崎さんはそれを部屋に用意してある紐に吊るす。


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