片恋綴
「そんだけ綺麗なら、直ぐに出来ます」
祐吾君の言葉が少しずつ、心此処に在らず、になっていく。刻々と迫りくるそのときに既に想いを馳せているのだろう。
朝起きて、お天気が良かったら彼はどう思うのだろう。その無表情な顔を崩すのだろうか。
そんなことを幾ら考えたってその答えを私が知ることなんてなくて。なくてもいいし、知りたいとも思う。
――恋って矛盾の塊なんだよね。
何年か前に永久が言っていた科白を不意に思い出した。
そのときは、何こいつ、クサイこと言ってるんだ、と思った。でも、今はその意味がよくわかる。
まあ、女好きでまともに恋愛しているのかどうかも疑わしい男の言葉が正しいとは限らないが。
灰色の地面に視線を降り注ぐ。二階とはいえ、所詮アパート。天井はさして高くない造りなので意外と地上は近い。
目の前には線路。
電車の騒音には一ヶ月で慣れた。
なんとなく過ぎる日常にも慣れきっていた。
そんなときに現れた年下の彼は、いとも容易く私の小さな狭い世界を変えていった。